06ダイアリー

仕事中に沸き上がった、苦い恋の思い出

オフィスビルの狭い階段を上がり、指定された3階のドア前で思わず呼吸を整えた。目の前のドアをノックするのに、少し勇気が要った。配送先は、元の彼女が転職したと言っていた小さなデザイン事務所。社員は十人もいない一桁の会社だと、付き合っていた頃に聞いたことがある。「もしかしたら、会えるかもしれない」——そんな淡い期待と緊張で、ヘルメットを脱ぐ手が少しだけ震えていた。

意を決してドアを叩き、伝票と荷物を抱えて中へ入る。ああ、入ってしまった。

「バイク便です」

「はーい」という、よく知った声が聞こえた。もうそれだけで、僕の心拍数が上がった。奥のデスクから足音が近づき、パーテーションの影から姿を現したのは、紛れもなく彼女だった。

「あっ……」

僕の姿を目にした瞬間、彼女は息を呑み、目を見開いた。ほんの数秒、時が止まったかのような気まずい間が流れる。しかし、彼女はすぐに平静を装うように軽く微笑んで、ぽつりと呟いた。

「……久しぶり」

微笑んだといっても、その表情はいかにも無理をしているようで、昔のような柔らかい表情もなかった。ビジネスライクで、どこか冷ややかな声。受領印を受け取り、荷物を手渡すまでのやり取りは、拍子抜けするほど機械的に終わった。特別な会話なんて、何一つ生まれなかった。

「ありがとうございました」と言って事務所のドアを閉めた瞬間、重い静寂が押し寄せてきた。俺、へんな顔してなかったかな。妙な心配が湧いてきた。

(元気そうだね。せっかく会えたし、また今度、ごはんでもどう?)

そんなふうに言われたらどうしよう——心のどこかでそんなドラマのような展開を期待していた自分に気づき、猛烈な情けなさがこみ上げてきた。終わった恋に何を夢見ているんだろう。

「バカだな、俺は」

ヘルメットを深くかぶり直し、あご紐をギュッと締めた。バイクに跨がり、エンジンをかける。ブォンと響く排気音と一緒に余計な未練を振り払い、僕は気持ちを切り替えて次の配送先へとアクセルを踏み込んだ。

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