平日は都内のビル群をすり抜け、時間と戦うバイク便ライダーの俺。だが、この週末だけは違う。仕事の相棒であるバイクに今度はキャンプギアを満載し、同じバイク仲間たちと最高の現実逃避へ出かけてきた。
土曜の朝、いつもの集会所に集まったのは計4台。インカムから流れるバカ話を聞きながら、新緑のワインディングロードを駆け抜ける。仕事で走る都心の渋滞とは違い、自分の意志で、ただ楽しむためだけに開けるスロットルがたまらなく気持ちいい。
山の中腹まで差し掛かったあたりで、時刻は11時過ぎ。昼食には少し早いかと思ったが、ここでイイ感じに年季の入った佇まいの蕎麦屋に寄った。仲間が事前に「美味いと有名な蕎麦屋があるらしい」と下調べをしていた店とのことで、案内をまかせたのだが、これが大正解だった。 頼んだ「天ざる蕎麦」は、地元産の粉を使った手打ちだという。一口すすると、鼻を抜ける蕎麦の香りと、驚くほどのコシの強さ。サクサクの山菜天ぷらとの相性も抜群で、全員が「美味すぎる……」と言葉を失い、一心不乱に手繰ってしまった。こういううれしい出会いがあるから旅はやめられない。大満足で店を出ると、いつのまにか案内待ちの客が何組も並んでいた。早めに来たのも大正解であったようだ。
夕方前には目的地のキャンプ場に到着。サクッとテントを設営し、お待ちかねの宴の時間が始まる。 乾杯の合図とともに、キンキンに冷えたビールの缶を開けた。「プシュッ」という小気味いい音のあと、喉に流し込む液体はまさに最高の一言。平日の仕事中に浴びる強風や緊張感が、五臓六腑に染み渡る麦の旨味に変わっていくような感覚だ。焚き火の爆ぜる音をBGMに、バイクのカスタム話や次の旅の計画を語り合う時間は、夜が更けるまで続いた。
翌朝、ふと目が覚めると、辺りはまだ薄暗く静まり返っていた。 となりのテントからまるでカエルのようなイビキが聞こえるので、仲間はまだ夢の中のようだ。時計を見たら5時半過ぎ。テントのジッパーを開け、冷んやりとした空気の中に顔を出す。ちょうど東の山並みから、ゆっくりと力強い朝日が昇ってくるところだった。 グラデーションに染まる空と、すべてを黄金色に照らす光。その圧倒的な美しさに、ただただ言葉を失う。冷え切った身体に朝日の温もりがじんわりと染み込んでいくのを感じながら、深く息を吸い込んだ。
日々の喧騒で少しずつ摩耗していた心が、すっきりと洗われていくのが分かった。 「よし、また明日から、東京の街を元気に駆け抜けよう」 胸の奥から湧き上がってくる確かな活力を感じながら、俺は愛車に優しく目をやった。もうじき仲間も目を覚ますだろう。とりあえずのんびりと珈琲でも淹れながら待つことにしよう。
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