06ダイアリー

夢を叶えるスタートライン〜バイク便ライダーの卒業物語

10年間走り続けた都市の雑踏が、今日ばかりはどこか優しく見えた。

バイク便ライダーとして駆け抜けた10年。雨の日も風の日も、冷たいビル風にさらされながら大切なお届け物を運んできたこの会社で、俺は最後のヘルメットを脱いだ。営業所の駐車場には、長年ともに汗を流した仲間たちが集まっている。

「お前がいなくなると、うちは大打撃だよ」

先輩ライダーの穣さんが苦笑いしながら、俺の肩を力強く叩いた。手渡された花束の代わりに贈られたのは、真新しい革製のライダースグローブ。仲間たちからの餞別だった。

俺の退職理由は、決して後ろ向きなものではない。幼い頃からの夢――「バイクでアメリカ大陸を縦断する」という大きな挑戦に踏み出すためだ。ルート66を走り抜け、地平線へと続くまっすぐな一本道を風を切って進む。ずっと心の中で温めていたその情景が、すぐそこまで迫っていた。

「先輩なら絶対やり遂げられますよ!無事に帰ってきたら、アメリカの土産話、山ほど聞かせてくださいよ!」

後輩たちの威勢の良い声と、あたたかい拍手が夕暮れの駐車場に響き渡る。俺は真新しいグローブに手を通し、グッと拳を握りしめた。手になじむ革の感触が、これから始まる冒険への胸の高鳴りをさらに大きくさせる。

「10年間、本当にお世話になりました!俺の走りの原点は、間違いなくこの場所です。最高の景色を、この目に焼き付けてきます!」

俺の、まるで見本のような、しかし本気の宣言に、歓声が上がった。相棒である愛車のエンジンを始動させると、重厚な排気音が未来へのファンファーレのように轟いた。ふと見たミラーに映る、仲間たちの笑顔と手を振る姿に、ほんの少しの後ろめたさを感じる。それを振り切るようにアクセルを開けた。目指すは太平洋の向こう側、無限の夢が広がる約束の大地だ。

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